インドの民族宗教。
アーリア人が生み出した伝統的バラモン教を基礎に、インド原住民の民間信仰や習俗が結合したもので、宗教と言っても特定の教祖や体系化された教義は持たない。
むしろインド人の生活習慣、社会制度、世界観が一体となったものと考えたほうがいい。
なお「ヒンドゥー教(Hinduism)」という言葉はヨーロッパで作られた、インドの宗教・文化一般を指す便宜的な呼称で、インドにはこれに正確に対応する言葉は存在しない。
〔教義〕
創造→存続→破壊の過程が永遠に繰り返されるとする輪廻 (りんね) の思想を説き,煩悩に満ちた輪廻の世界からの解脱 (げだつ) を究極の理想とする。
=ヒンドゥー教とバラモン教の区別は?= 両者の区別は難しいが、大まかに言って- バラモン教……古代アーリア人の宗教で主神ブラーフマンを崇拝
- ヒンドゥー教……インド人全体の宗教でシヴァやヴィシュヌを崇拝
バラモン教はゆっくりとヒンドゥー教に変容し、その過程は4世紀頃完成した。 |
解脱の方法として、
- 祭祀(カルマ)
- 知識(ジュニャーナ)
- 神への絶対的帰依(バクティ)
の3実践道を説く。
〔主な神々〕
『ヴェーダ』の神々と共通するものが多いが,中でも
- 創造神ブラフマー……世界の創造者。最高神だが観念的で神話に乏しいため、最も人気がない。
- 存続神ヴィシュヌ……世界を維持・発展させる。クリシュナ、ラーマなどに化身する。
- 破壊神シヴァ……世界を破壊し、再生する。
の3神を主要神格 (トリムールティ = 三大神格) とする。
〔聖典〕
バラモン教と共通の聖典に『ヴェーダ』があるが、むしろ叙事詩『マハーバーラタ』『ラーマーヤナ』『プラーナ』などに描かれる神話世界の方が重要で、中でも『バガヴァッド・ギーター』は座右の聖典として最も尊崇される。
〔宗派〕
- ヴィシュヌ派……存続神ヴィシュヌを最高神とする。哲学的思考が重視される。
- シヴァ派……破壊神を最高神とする。動物を犠牲にして、熱狂的な祭りを行う。
- シャクティ派……シヴァの妃ドゥルガー女神とその性力(シャクティ)を崇拝する
など。
〔代表的遺跡〕
エローラ、バーダーミ、エレファンタなどの石窟寺院はじめ数多い。
〔社会への影響〕
僧侶バラモン(ブラーフマナ)、王族(クシャトリア)、庶民(ヴァイシャ)、隷民(シュードラ)の順で身分を固定するカースト制度を根付かせ、宗教が日常生活や社会秩序と不可分の関係を持つインド社会を成立させるのに絶対的な影響力を発揮した。
歴史
- 前13世紀頃
- アーリア人がインドに侵入 → ドラヴィダ系原住民を支配する過程でバラモン教の形成開始。
- 前10世紀頃
- アーリア人とドラヴィダ諸族との混血が始まり、混成宗教としてのヒンドゥー教成立の契機が生まれる。
- 前500頃
- 4大ヴェーダが成立し、バラモン教が大成。
- 紀元前後
- シヴァとヴィシュヌの地位が高まり、バラモン教は現在のヒンドゥー教への道を歩み始める。
- 後1〜3世紀
- 仏教の興隆に押され、バラモン教は振るわず。
- 4世紀頃
- グプタ朝の繁栄下で豊富な神話や民間信仰を吸収、ヒンドゥー教へと発展
- 8世紀頃
- ヒンドゥー教の一つの頂点
- 12世紀
- ラーマーヌジャのバクティ(絶対帰依)思想が、南インドで宗教改革運動を生み出す
- 13世紀頃
- イスラム教の神秘思想スーフィズムの影響
- 16世紀
- イスラム教の影響を受け、ナーナクが一神教的・偶像否定のシーク教を組織する。
- 19世紀
- シーク派の統一王国(シーク教国)がランジート・シングによりラホールを中心に成立 → イギリスとの「シーク戦争」で滅ぼされるまで継続。
- 19世紀〜
- 急速な近代文明の進出に対応して様々な改革運動が試みられる。
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