インドネシア歴史探訪
最初のインドネシア人

 現在のインドネシアには、ジャワ人スンダ人、ミナンカバウ人、バタック人、ダヤク人など数多くの民族が住んでいます。彼らはどのようにインドネシアに渡ってきたのでしょうか?

  • 東南アジアの人種の形成
  • アウストロネシア語族がやってきた!
  • ジャワ人、スンダ人、マレー人はこうして生まれた


    東南アジアの人種の形成

     氷河時代(更新世)が終わり、完新世----つまり地質学的現代が始まって、スンダ大陸(1)が水没してインドネシアが島になった時、インドネシアにはソロ人やワジャク人の末裔と言える人々が住んでいました。彼らはオーストラリア原住民に近い体の特徴を持った人々でした。

     現在、インドネシアを含む東南アジア一帯には、モンゴロイド(黄色人種)の南方群が住み着いていますが、マレー半島や島嶼部には非モンゴロイドの未開部族が点在しています。彼らこそ、モンゴロイドがこの地にやってくる前に東南アジアに広く分布していた古代の住人の末裔と考えられているのです。
     これら非モンゴロイド集団には次のようなものがあります。

    • オーストラロイド(オーストラリア人種)
      • オーストラリア原住民……パプア人も含まれる。
      • メラネシア人種(メラネソイド)……パプア人とモンゴロイドの混血と思われる。
    • ネグリト……背が低く、暗褐色の皮膚、縮れた頭髪、広い鼻と厚い唇を持つ。森林に住む採集狩猟民。アエタ族(ルソン島)、セマン族(マレーシア北部)、アンダマン島民など。多くは他民族の言葉を喋り、彼ら本来の言葉と思われる系統不明の言語を話すのはアンダマン島民のみ。
    • ヴェッドイド……黄褐色の肌、波状の頭髪、彫りの深い顔。最近まで採集狩猟生活。サカイ(セノイ)族(マレー半島)、プナン族(カリマンタン島)、トアラ族(スラウェシ島)など。遺伝学的にはオーストラロイドよりモンゴロイドに近いと言われる。
    • プロトマレー(原マレー)……黒褐色の肌と縮れた頭髪を持つが、ネグリトほどは背は低くない。狩猟民で小スンダ列島などに分布。
     これらの古代人種はどのように広がっていたのでしょうか。
     尾本恵市氏(1984)他によれば、次のようになります。
     インドネシアの旧人ソロ人の子孫は、約5万年前にサフル大陸(2)へ渡り、オーストラリア大陸に広がって、高温・乾燥の気候に適応してオーストラロイドになった。
     その後、スンダ大陸では新人化が進み、1万年前にはワジャク人が登場した。そして、彼らのうち、密林で暮らしていた者たちは体が矮小化してネグリトになり、海岸地帯や湿地帯のようにもっと開けた土地で生活していた連中はプロトマレーになった。……


    アウストロネシア語族がやってきた!

     このように、1万年前(紀元前8000年)のインドネシアはネグリトとプロトマレーの住む土地となっていました。彼らは農耕をまだ知らず、採集狩猟民であり、剥片石器を中心とする後期旧石器文化の中で暮らしていました。

     ここに、中国大陸方面から何回かの民族移動の波が押し寄せます。

     その一つは、紀元前5000年以前に、東南アジア大陸部から、マレー半島を経由してスマトラ方面へやってきた、ホアビン文化(中石器文化)を持った人々の到来でした。
     彼らは、人種的にはモンゴロイドで、原住プロトマレーと混交し、バタック族(スマトラ島)、ダヤク族(カリマンタン島)、トラジャ族(スラウェシ島)などを生み出したとも言われます。また、さらに東へ進み、オーストラロイドのパプア語族と混ざってメラネソイド(メラネシア人種)となったのかも知れません。

     しかし、さらに重要な民族集団が、紀元前1500年以降にインドネシアに入ってきます。彼らこそ、現在インドネシアに住む人々の直接の祖先なのです。

     彼らは「アウストロネシア(オーストロネシア)語族」と呼ばれます。
     このグループには現在の次のような民族が含まれます。

    台湾諸族……ツォウ族、アタヤル族

    インドネシア語派(ヘスペロネシア語派)
    • 北西(フィリピン)語群……タガログ族(ルソン島)、ビサヤ族、イロカノ族など
    • セレベス語群……ブギ[ス]族、トラジャ族
    • マダガスカル島民
    • 西インドネシア語群
      • マレー(マライ、マラヤ)系諸族……マレー族、ミナンカバウ族など
      • ジャワ系諸族……スンダ族ジャワ族、マドゥラ族、バリ族、ササック族(ロンボク島)など
      • スマトラ島民……バタック族、アチェ族など
      • カリマンタン[ボルネオ]島民……ダヤク族、イバン族
      • チャム人……南ベトナムにチャンパー王国(192〜17世紀末)を建設。
       
    ミナハサ族(スラウェシ[セレベス]島)

    モルッカ諸島民……アンボン人、セラム族

    オセアニア語派(ヘオネシア語派、メラネシア=ポリネシア諸族)
    • オセアニア諸族……オセアニア諸族(ニューカレドニアなど)、東オセアニア諸族(ニューヘブリデスなど)
    • ミクロネシア諸族……ポーンペイ、トラック、ギルバート、マーシャル諸島民
    • ポリネシア諸族……フィジー、トンガ、サモア、イースター島民、ハワイ原住民、マオリ族など
     これらの民族の共通の祖先(原アウストロネシア語族)は、前5000年以前には中国南東部に住み、ヤムイモ、タロイモ、パンノキ、バナナなどの根栽農耕を営んでいました(3)

     彼らは前5000年、まず台湾へ渡り、次いで前3000年頃フィリピンへ移ります。
     そこから二手に分かれ、スラウェシ→マルク(モルッカ)→オセアニアへと広がっていったグループは「オセアニア語派」を形成し、一方、東インドネシア方面へ移り住んだ集団は「インドネシア語派(及びモルッカ諸島民)となったのです。

     インドネシア語派の共通の祖先は前2000年以降フィリピンから南下し、「北西(フィリピン)語群」「セレベス語群」「西インドネシア語群」の三つに分かれました。
     これらのうち、カリマンタンを経由してジャワスマトラといった今のインドネシアの中核地域に広がっていったのは「西インドネシア語群」で、その拡大発展は前500年以降と、比較的最近のことなのです。


    ジャワ人、スンダ人、マレー人はこうして生まれた

     西インドネシア語群は海洋民族であったらしく、前500年以降、東南アジア島嶼部一帯の沿岸地帯に広く共通の文化圏を広げました。甕棺葬に特徴付けられた彼らの文化は、内陸のプロトマレー系狩猟民とは全く異なるもので、根栽農耕を持ち、海洋通商で栄えました。
     甕棺葬文化は中部ベトナムに及んでおり、西インドネシア語群が移住したことを示しています。実際、そこから西インドネシア語群に属するチャム族が現れています。

    民族の系統
  • アウストロネシア語族……ジャワスンダマレー人、オセアニア諸島民など
  • アウストロアジア語族……ベトナム、クメール(カンボジア)人など
  • 銅鼓
    銅鼓 (インドネシア出土)
    ドンソン文化を特徴付ける神聖な楽器(?)。机ほどの大きさもあります。
     前1〜後1世紀には、北ベトナムに発祥した青銅器文化であるドンソン文化が、マレー半島から西部インドネシアにまで広がります。これも海洋交易網を経由して流入してきたものと思われます。
     ドンソン文化は基本的にアウストロアジア語族(アウストロネシアとは違うよ!)の文化で、稲作農耕(ブル稲作)を携えていました。
     この文化の影響下に入った西インドネシア語群は、稲作農耕を学び、定住化し、各地で固定した民族が形成されてゆきました。

     スマトラの中・南部にはインド古代文明の影響を強く受けたマレー人が生まれます。マレー人からはのち、ミナンカバウ人などが分離します。
     ジャワ島の西部にはスンダ人が住み着きます。
     そしてジャワ島中部にジャワ人が、バリ島にはバリ人が、それぞれ誕生するのです。


    1.   スンダ大陸とは、寒冷な氷河時代に海面が低下したため出現した、マレー半島、スマトラ島、ジャワ島、カリマンタン島などが一続きになった亜大陸のこと。

    2.   サフル大陸とは、氷期の海面低下により、オーストラリアとパプア・ニューギニア島及びその周辺大陸棚が一体化して生まれた亜大陸のこと。

    3.   アウストロネシア語族の移動過程は、ベルウッドやシャトラー&マークらの研究によります。

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    ©1998-99 早崎隆志 All rights reserved.
    更新日:1999/05/04

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