石炭とは

 石炭とは、数億年前に地上に繁茂した植物が腐って分解する前に地中に埋もれ、酸素が少ない状態で長期間、地熱や地圧を受けて炭化作用が進んで生まれた可燃性の層状堆積岩のことです。いわば、古代の植物の化石です(但し実際には、石炭の中には、石炭化する前の元の植物はほとんど痕跡を留めていない)。

 石炭は人間が最も古くから利用している化石エネルギーで、古くは紀元前315年に、古代ギリシアの哲人アリストテレスの同僚・友人だった博物学者テオプラストスが『石について (Περὶ λίθων)』の中で、

「北イタリアのリグリア地方やギリシアのエリスで採掘した石炭を鍛冶屋の燃料に使っている」

と伝えています。
 宋代 (960~1279) 以降の中国では、石炭を乾留(蒸し焼き)して炭素部分だけを残した「コークス(骸炭)」が利用されるようになり、現在の中華料理につながる強い火力を使った炒め物が考案されるようになりました。

 石炭が人類の文明に最も寄与したのは、18世紀のいわゆる「産業革命」から20世紀初頭までです。
 1911年にイギリスの海軍大臣に就任したチャーチルは石油のメリットにいち早く着目し、英国海軍の軍艦の燃料を石炭から石油に転換して軍艦のスピードと航続距離を増して、1914年に始まる第1次世界大戦でドイツ海軍を打ち破りました。
 その後、燃料を個体の石炭から液体の石油に転換する「液体革命」は世界の主流となり、フランスの宰相クレマンソーは「石油の一滴は血の一滴」という有名な言葉を残しました。
 こうして「石油の世紀」20世紀を迎えますが、石炭が使われなくなることはなく、特に発展途上国等では安価なエネルギーとして利用され続けてきました。

 しかし地球温暖化問題が意識されるにつれ、大量の二酸化炭素を排出する石炭には逆風が吹くようになりました。
 一方で2011年に東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故を経験した日本では原発の稼働停止が相次ぎ、不足分の発電燃料として改めてコストの安い石炭に注目が集まりました。
 現在では、安価な石炭を、地球環境に悪影響を及ぼさずに使うための様々な技術革新が試みられています。

 
クリーンコール技術

クリーンコール技術


 石炭は、化石燃料の中で最も資源量が多く、産地の偏りもなく、安価である一方、燃焼時に温室効果ガスである多量の二酸化炭素 (CO2)や、大気汚染物質である窒素酸化物 (NOx))硫黄酸化物 (SOx)、煤塵等を排出するという欠点があります。
 そこで、これら石炭のマイナス面を総合的に解決し、環境負荷を軽減しようとする「クリーンコールテクノロジー (CCT)」と呼ばれる石炭利用技術の実現が試みられています。

 石炭をクリーンコールとして利用する技術には、次のようなものがあります。

  •  ・石炭の液化やガス化による燃焼効率の向上 …… 固体の石炭から灰分、硫黄分を除去し、液体もしくは気体に転換することで石炭のクリーンな使い方が出来る。

  •  ・排煙時の有害成分の除去

 クリーンコール技術の中でも、特に注目されているのは「石炭ガス化複合発電(Integrated Coal Gasification Combined Cycle;IGCC)」です。
 これは、石炭をガス化して水素、一酸化炭素等の可燃性ガスに変換し、ガスタービンと蒸気タービンを合わせた「コンバインド(複合)サイクル発電」を行うことにより、発電効率の向上と環境負荷の削減を達成を目指すものです。



炭層メタン


 石炭層にはメタンガスが吸着されていることが多く、これを「炭層メタン(コールベッドメタン) (coalbed methane: CBM)」と呼びます。オーストラリアでは「コール・シーム・ガス(coal seam gas; CSG)」とも呼ばれます。
 これは天然ガスと同じ成分の非在来型ガスの一種です。つまり、石炭層には、これまで計算されていなかった莫大な量の天然ガスが眠っている可能性があるのです。

 ガスは地下水の圧力で吸着しているため、これを石炭層表面から離脱させるために水を抜きます。
 このためCBM産出の際には大量の随伴地下水の処理施設が必要となります。
 またCBMの組成はメタンほぼ100%なので、通常の天然ガスに比較して燃焼カロリーが低く、ブタン等の増熱剤を混入させる場合もあります。
 近年は採掘技術の進歩とガス価上昇により生産が進み、米国では天然ガス供給の約1割を占めます。
 
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