「天然ガス」は、「原油」と本質的には同じもの(炭化水素)です。
単に、地上の普通の環境(常温・常圧)で液体のものを「原油」、気体のものを「天然ガス」と呼んでいるだけです。
炭素数 | 化合物名 | 分子式 | 分子量 (g/mol) | 常温での状態 |
---|---|---|---|---|
C1 | メタン | CH4 | 16.042 | 気体 |
C2 | エタン | C2H6 | 30.07 | 気体 |
C3 | プロパン | C3H8 | 44 | 気体 |
C4 | ブタン | C4H10 | 58.12 | 気体 |
C5 | ペンタン | C5H12 | 72.15 | 液体 |
C6 | ヘキサン | C6H14 | 86.18 | 液体 |
C7 | ヘプタン | C7H16 | 100.21 | 液体 |
C8 | オクタン | C8H18 | 114.23 | 液体 |
上の表に示したように、ペンタン以上の成分は常温・常圧で気体ですが、油田の中は通常は地上より高温・高圧で、しかもいろいろな炭化水素の成分や、水その他の不純物と混ざって昇ってきます。
従って、原油とガスと水は常にセットで生産されます。
そのうち、坑井から原油の生産割合が多い地域を「油田」、ガスの生産割合が多い地域を「ガス田」と呼んでいるに過ぎません。
「油田」の場合、同時に生産される天然ガスを「随伴ガス (asociated gas)」、「ガス田」の場合、同時生産される原油を「随伴原油 (asociated oil)」と呼びます。
地上に産出後、「セパレーター」で原油・天然ガス・水に分離し、水は通常油田等に圧入して地下に戻し、原油とガスはそれぞれ出荷します。
天然ガスの利用
かつては、随伴ガスは気体なので運ぶこともできず、引火すれば爆発の恐れもあった現場の厄介者で、そこで火をつけて燃やしてしまう(フレア)等の処理を行っていました。
天然ガスの大規模な産業利用が始まったのは、第2次世界大戦後のことです。その背景には、輸送技術の発達がありました。
ガスの輸送には大きく分けて、次の二つの方法があります。
- (1) パイプラインによる輸送
- (2) LNGへ液化し、タンカーやローリーに載せて輸送
パイプライン輸送は比較的早くから始まりましたが、輸送先が固定されることと、1km敷設するのに数億円かかると言われるほどの高額な設備投資が必要であるという問題点があります。
一方、LNGは、天然ガスを零下162度まで冷却すると液体となり、気体の約600分の1の体積となって、輸送・貯蔵をしやすくなるという性質を利用するもので、生産地での液化装置と、受入基地での気化装置を作れば、タンカーとローリー輸送により、地球の裏側までも持って行ける機動性の高さが利点です。
さらに、冷却して液化する際に、不純物はほとんど凝結して除かれるため、LNGを気化したガスはほぼそのままで都市ガスや発電燃料の原料として使うことが出来るという点も便利です。
昨今では、温室効果ガスである二酸化炭素等の排出量が、他の化石エネルギーに比べて少なく、環境に対する負荷が少ないという点でも天然ガスは注目を集めています。
排出ガス | 石炭 | 石油 | 天然ガス |
---|---|---|---|
二酸化炭素 (CO2) | 100 | 80 | 57 |
窒素酸化物 (NOx) | 100 | 70 | 40 |
硫黄酸化物 (SOx) | 100 | 70 | 0 |
このように天然ガスは、燃焼した際に発生する窒素酸化物、二酸化炭素の量が石炭や石油より少なく、硫黄酸化物は発生しません。有害な一酸化炭素をはじめとする不純物もほとんど含みません。
中国やインドなど、これからさらに大きく経済的に発展しようとしているものの、安価なエネルギー源が大量に必要な一方、PM2.5等の環境汚染に悩まされている国々から、天然ガスが高い注目を集めるのも、これが一つの理由です。
別の理由もあります。
世界の大油田が中東を中心とした地域などに偏在していることは知られていますが、天然ガスの分布は石油と異なり、世界各地に広がっており、地政学的なリスクを分散できるのです。埋蔵量(可採年数)も石油を上回るほど豊富とされています。
もっとも埋蔵量についていえば、シェール層の開発が進んだおかげで、原油もガスも、少なくとも21世紀中は枯渇を心配する必要はなくなっていると言われますが。